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伝統が限りなく尊い国

イギリスでは蒸気機関車が発明され、産業革命を突き進み、七つの海を航海して世界中と貿易を始め、議会制民主主義や高福祉国家を世界に先駆けて進めるなど、先端を突き進むというイメージが強い国です。

またノーベル賞受賞者を数多く排出するオックスフォードやケンブリッジ大学がある、学問の分野でも世界に大きな影響を与えた国でもあります。

2012年に開催されたロンドンオリンピックは記憶に新しいところですが、一方、日常のロンドン市内では、二階建てバスが走り、シルクハットをかぶったままでも乗車できる背の高いタクシーやピカデリー・サーカスなど格式高い雰囲気が街中にあふれています。

では市民生活はというと、特にロンドンにおいては、住んでいる場所でその出身の身分を品定めるといった、家を重んじる風潮が今でもかなり強いと言えます。

確かに、公爵や伯爵などサーを頭につけて呼ぶなど、大英帝国ならではの国民常識です。

ただし、第二次世界大戦後は、様々な社会問題や不況、古い格式などが現在の風潮に合わないといった意見もイギリス国内にあるように、微妙な影を落としています。

個性的な不思議ともいえる感性があります。

それは、とても古くから伝わる家を愛していることです。

日本とは逆で、新築の家をあまり好まず、相当年季の入った家、たとえば100年以上前からある田舎の壊れかかった家が好きだということです。

シンプルに言うと随分ガタのきた家を愛するのです。

しかも家だけでなく、調度品にしてもガタガタだけれども古いほうを好みます。

個人的な嗜好の差はあるのでしょうが、骨董商が繁盛していることを考えれば、国民全体の好みとも考えられます。

ロンドン郊外の知り合いの家に行ってみると、穴の開いているイスが部屋の隅においてありました。

粗大ゴミだろうと考えて彼に進められてソファーに座ると、彼はその粗大ゴミに見える椅子に座りました。

しかも相当グラグラするようで、恐る恐る穴の開いたイスに腰掛けながら私の驚いた顔を見て、言い訳がましく
「ヒドい椅子だろう、もうすぐ修理しようと思っているんだけど、なかなか時間が取れなくて・・・。」
と話すではありませんか。

私は率直に
「そのイスを修理するよりは、新しいイスを買ったらいいじゃないか。」
と言うと、今度は彼が驚いて
「とんでもない。これはやっとの思いで骨董屋から買ってきたイスなんだよ。これを修理して使うことが、楽しみなんだ。」
と上から目線で言い返しました。

なるほど、これがイギリスの一面だとカルチャーショックを受けながらも感動したことを、今でも時々思い出します。