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駅の別れは悲しい

以前JRがシンデレラ・エクスプレスというキャッチコピーで「再会する」というシーンをコマーシャルにして話題になりましたが、逆に列車での別れは、離れる人たちの心を大きく揺さぶります。

駅のホームで、感動すら覚える別れの場面に立ち会うことがあります。

特に長距離の移動になるヨーロッパの夜行列車が出るときには、もらい泣きしそうな別れがあります。

ブーツの形をしたイタリア半島のちょうどカカトの部分にブリンディジという港町があります。

南イタリアでは、給料の良いフランスやドイツへの出稼ぎが今でもあります。

多分この街は、ギリシャへのフェリー航路もあるため、出会いと別れが多い街なのでしょう。

私が立ち会った別れは、ローマ方面への列車ホームでのことでした。

若い男性が、列車のステップに乗り、見送りの恋人と思われる女性とにこやかに話をしていました。

私もその列車でベネチアまで行く予定でしたので、彼らに軽く挨拶をしてステップを譲ってもらい、列車に乗り込みます。

コンパートメントの座席に荷物を置いて、まだ数分出発までに時間があったので通路の窓を開けると、あの二人はまだ話をしています。

私は、しばらくお別れになるんだろうなぁーなどとぼんやりその二人を見ていました。

ヨーロッパの列車は、ほとんど出発の際に汽笛などは鳴らすことはなく、いきなり発車します。

いよいよ出発の時間が迫ってくると、若者は、ステップを降りて彼女としっかり抱き合って、お別れのキスをしました。

ここまでくるともう交わす言葉もあまりないのでしょう。ただただ見つめ合う二人の間には、お互いへの強い思いがあるだけです。

いよいよ出発の時刻になると、若者は、列車のドアまでステップを上がります。彼女はじっと彼を見つめていましたが、思わず大粒の涙をこぼし始めます。軽い振動が伝わり、列車は動き始めます。

涙を拭うこともなく彼女は、動き始めた列車を歩きながら追いかけます。

彼はすでにドアを閉め、窓越しに彼女を見つめています。

私は「なんで彼女を置いていくんだ。一緒に連れて行ってやれ」と言ってあげたかったですが、きっと事情があるのでしょう。

既に彼女は歩みを止め、列車に小さく手を振って、わずかに微笑みながら速度を上げ始めた列車を見送ります。

きっと旅立つ彼には次の目標があり、それに向かって進むのですから、寂しさはあるものの希望もあるはずです。

しかし見送ることしかできない彼女は、次の日から彼なしの暮らしを送らなければならないとすれば、寂しいだろうと少なからず同情してしまいました。

行ってほしくはないだろうけれど、彼の思いを支持した彼女の健気さを思い出すと、その後二人がきっとうまくいっていて欲しいと今でも時々思い出します。

駅の別れは、悲しすぎます。